機内で急病人発生!安全運航は究極のチームプレイです


お客様の搭乗が完了。搭乗者数の間違いがないことを確認すると、飛行機のドアを閉めてドアモードを変更します。

「CAはドアモードをArmedに変更してください」

このコールは「非常ドアに鍵をかけなさい」という意味ではありません。飛行機のドアは離陸すると気圧差によって自動的に開かないようになります。ドアモードを変更することで、ドアを開けると自動的に緊急脱出用スライドが展張するようになります。出発する前に、緊急脱出が可能なモードに変更するのです。

ドアが閉まるとパイロットは管制塔のグランド・コントローラーにコンタクトをとり、プッシュバックの許可を得ます。許可が下りるとパイロットは地上スタッフに連絡し、トーイング・カーによる飛行機の押し出し(プッシュバック)が開始されます。コックピットではチェックリストを進めながらエンジンを始動させていきます。

キャビンではウェルカム・アナウンスを行い、そこから機内にある非常用設備の説明に移ります。旅客用モニターが装備されていない飛行機の場合、CAがその場でアナウンスに合わせながら酸素マスクや救命胴衣などの使用方法を実演していきます。

さて、その日もいつものように非常用設備を説明していました。

私のアナウンスに合わせながら、CAが非常用設備の使い方を実演していきます。

その時、通路前方のお客様が数名、手を挙げたのです。

「なんだろう」と思いキャビンの様子をうかがうと、1名のお客様が力無くうなだれているのが目に入りました。明らかに様子がおかしい。

急病人発生!

すぐにアナウンスを中断。対応に入ります。アナウンスが中断したことで他のCAもすぐに異変に気付き、急病人のもとへ急行します。

響いてくるエンジン音。両方のエンジンが始動していきます。パイロットはキャビンの様子には気づきません。

急病人の意識確認。反応はあり。嘔吐、顔面蒼白、意識レベル中。意識がありましたが嘔吐があったため、気道内吐物混入を防ぐために回復体位を確保。バイタルチェック。脈拍が平均よりも早い。

容体が悪化する可能性もあり、これから深夜の3時間のフライトには耐えられないように見えました。

機長の第一報を報告します。ここで一報をしないとパイロットは通常通り離陸滑走路へ向けて地上走行を開始してしまいます。上記の印象がある以上、急病人の詳しい状態がわかるまでは離陸は待って欲しい。

「急病人発生。セーフティ・デモを中断し、現在ケアを実施中」。パイロットからは「スタンバイしておく」という返答を頂きました。

アナウンスによる医療関係者の呼び出し「ドクター・コール」を実施。医療関係者が搭乗していないか確認し、名乗り出てくださった場合は急病人の診断や治療をお願いします。

今回は、その場で名乗り出は無し。CAのみによるケアを続けつつ、お連れ様から情報収集を行います。結果、搭乗前の服薬による急変の可能性あり。

内心で「この旅客のフライトは難しい。再び駐機場に引き返して旅客を降機させるべきだ」と判断。急病人旅客の降機に備え、急病人旅客のお連れ様のご家族に交渉。この旅客のフライトが困難であり、安全のため飛行機を降りて医師の看護を受けることを提案した結果、ご了承いただく。

パイロットからコール。エンジンの始動が完了し、自走が可能になったようです。本来ならこの後グランド・コントローラーにコンタクトして地上走行の許可を得たのち、離陸滑走路に向けて走行を開始します。

パイロットには、キャビンの様子がわかりません。お客様の容態や収集した情報をもとに、この旅客の安全性をCAが主体的に判断しなければいけません。私の腹は決まっていました。

「戻ったほうがいい?」
「はい。戻ったほうがいいです」
「了解」

駐機場引き返し(Ground Turn Back / GTB)決定。飛行機は自走を開始し、再び駐機場へ戻ります。

機長がGTBに関するアナウンスを入れてくださいます。ワークロードが増えていたので、非常にありがたい支援です。

急な引き返しでGSさんに負荷がかかってしまうが、私たちの最優先事項は常に「安全」です。

ブロック・イン完了。機外ではボーディング・ブリッジの接続が始まります。飛行機のドアモードをDisarmedモードに変更。このモードに変更すれば、ドアを開けても緊急脱出用スライドは展張しません。

ドア・オープン。外に待機してくれていたGSさんに状況を伝えます。急病人旅客、およびお連れ様の降機の準備を進めます。救急車要請の必要性を相談されるが、そこまで深刻ではないと判断。

しかし急病人旅客は単独で歩行することが困難で、車椅子が必要になる。GSさんが車椅子の用意に取り掛かってくださったが、あの広い空港内に少数しかない車椅子を持ってくるまでに、時間がかかる様子。

その間にも、この便は遅延しています。この便のあとにも次のフライトが控えています。可能な限り早く、安全にこの旅客を降機させて再出発したいところ。

代替案として、機内搭載の小型車椅子を組み立てて急病人旅客を運び出すことに。急いで機内用車椅子を組みたてます。

GSさんによる旅客の運び出しを完了。車椅子の再搭載を完了し、直ちに再出発準備にとりかかります。

降機する旅客の受託手荷物があった場所、再度飛行機のカーゴ・ドアを開けて取り降ろしが必要でしたが、今回はそれが無かったため、早めに再出発準備に取りかかれました。

GSさんと共に最新の搭乗旅客数の確認、旅客の着席状況の確認など、通常運航の手順通りに準備を進めます。

そうして再出発。
目的地へ向けて離陸したのでした。

パイロット、CA、管制官、GSさん、関係部署の方々。空に携わる沢山のプロたちのチームプレイによって、空の安全は保たれています。

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