事例学習【USエアウェイズ1549便着水事故】


2009年1月15日。ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便(エアバスA320型機)が、ラガーディア空港を離陸直後にバードストライクによって両エンジンの推力を喪失し、ハドソン川に緊急着水した事故です。

「ジェット旅客機による厳寒の川への不時着水」という大事故だったにも関わらず乗客乗員全員が生還したことから「ハドソン川の奇跡」と呼ばれています。

この事故を今一度、学びなおしてみたいと思います。

事前準備無しでの不時着水

1549便は離陸から95秒後、高度3000フィートの地点でカナダガンの群れに遭遇し、バードストライクによって両エンジンが破壊され、大都市のど真ん中で推力を完全に喪失してしまいます。高度とスピードが足りないためラガーディア空港や近隣の空港へたどり着けないと判断した機長はハドソン川への着水を決断。緊急事態発生から206秒後にハドソン川に着水しました。

キャビンには3名の客室乗務員が乗務しており、バードストライクやエンジントラブル発生を把握していたようですが、映画版では「ラガーディア空港に引き返すだろう」と考えていたようです。パイロットは操縦で精一杯だったため何の情報共有も無かったので、キャビンでは状況の正確な把握は難しかったと思います。

操縦に専念していたサレンバーガー機長からキャビンに「Brace for impact!(衝撃に備えよ)」の指示が出たのが着水の約80秒前。この時点でも客室乗務員は、飛行機がどこに緊急着陸水するか正確にはわからなかったのではないかと思います。CAは着席していたから窓を見れませんでしたし、エアバスA320のドアについてる小さな覗き窓からは外部の状況が把握しづらいのです。

乗客にライフベストを着用させること、衝撃防止姿勢を指示すること、脱出援助者を確保することなどの事前準備が一切できないままの緊急着水でした。「Brace for impact」の指示が来た時点でCAは自身も衝撃防止姿勢を取りコマンドを叫び続けるよう決められていたでしょうから、CAがアナウンスで乗客に指示を出すこともできませんでした。

水上への緊急脱出

緊急着水に成功した1549便ですが、機体の破損により浸水が始まります。乗客を直ちに脱出させなければいけません。機体後方から浸水が始まったので、後方の2つのドアは使用できません。使えるのは前方のドアと翼上非常口だけです。

ちなみに、この事故が発生したのは1月15日。乗客が脱出するのは、気温-6℃の真冬のニューヨークを流れる水温2℃のハドソン川です。機外に脱出できたとしても、低体温症により生命が脅かされる非常にシビアな状況です。乗客にはご年配の女性や、赤ちゃんを連れたお母さんもいました。

他にも、ライフベストの場所がわからず未着用の乗客。座席のシート・バンを浮き具代わりに持ち出そうとする乗客。手荷物を持ったまま逃げようとする乗客。焦って前の座席をまたいで逃げようとする乗客など、様々な旅客がいたなかで、乗客乗員155名は3分半で脱出を完了しました。

2016年に新千歳空港で発生したJAL3512便の緊急脱出では、乗客乗員165名の脱出に10分近くかかっています。このデータから見ても、1549便の脱出がいかに迅速だったかがわかります。

サレンバーガー機長は手記の中で、同時の脱出の様子を「統制のとれたパニックだった」と表現していました。機長からの脱出の指示がきた時点でCA達は直ちにドアを開けてスライド・ラフトを展張させ、乗客の円滑かつ迅速な脱出を援助していたようです。

サレンバーガー機長やジェフ副操縦士は、キャビンに出て乗客の脱出を支援しつつライフベストや保温用ブランケットを配布して乗客の生存率を高めていました。

まとめ

状況を知るほど、この事故が「奇跡」と呼ばれている理由がわかってきます。しかしこの「奇跡」は偶然などではなく、パイロット・客室乗務員が積み重ねた技術・知識・経験の全てを活かしきったことで実現した当然の現象なのだと感じます。

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